マーフィーの法則は本当か
一つずつ計算したら、本当のものと気のせいのものがきれいに分かれました
「洗濯すると靴下が片方だけなくなる」「バスは待っているときに限って来ない」「バタートーストはバターの面が下に落ちる」。こういうのをマーフィーの法則と呼びます。
もとは技術者の心得で、「起こりうる失敗は必ず起こる」という設計の考え方でした。それが1990年代に笑い話の本として広まって、いまの形になっています。
では全部ただの思い込みなのか。調べたら違いました。いくつかは計算でぴったり確かめられます。このページでは一つずつ数えて、本当のものと気のせいのものを分けました。
ここに出てくる数字はすべて、その場で計算したものです。引用ではありません。計算に使ったコードも最後に載せています。
本当でした: 靴下は片方だけなくなる
これは計算するとむしろ当たり前でした。両方いっしょになくなるほうが、はるかに難しいのです。
10足(20枚)持っていて、洗濯の途中で2枚どこかへ行ったとします。その2枚がたまたま同じペアだった確率は、20枚から2枚を選ぶ190通りのうち10通りだけ。つまり1/19、約5.3%です。
| 持っている足数 | 2枚が同じペア | 片方だけが2つできる |
|---|---|---|
| 5足(10枚) | 11.1% | 88.9% |
| 10足(20枚) | 5.3% | 94.7% |
| 15足(30枚) | 3.4% | 96.6% |
| 20足(40枚) | 2.6% | 97.4% |
たくさん持っているほど悪化します。整理しようと靴下を買い足すと、片方だけが残る確率は上がるわけです。
10足から5枚なくした場合も計算しました。完全に消えるペアは平均0.53組だけで、余った1枚は平均3.95枚。なくした枚数のほとんどが「片方だけ」になります。引き出しに片方が溜まるのは、運が悪いのではなく確率どおりです。
本当でした: 13日の金曜日は多い
これも本当です。しかも暦の構造から決まっている確定事実で、ゆらぎではありません。
グレゴリオ暦は400年でぴったり146,097日=20,871週になります。週の切れ目とぴったり合うので、400年たつと曜日の並びが完全に元に戻ります。つまり400年ぶんを数えれば、それが永久の答えです。
400年間にある13日は4,800回。曜日別に数えるとこうなりました。
| 13日の曜日 | 400年での回数 |
|---|---|
| 金曜日 | 688 |
| 水曜日・日曜日 | 687 |
| 月曜日・火曜日 | 685 |
| 木曜日・土曜日 | 684 |
均等なら685.7回なので、金曜日はいちばん多い側です。差はわずか4回ですが、何百年たっても縮まりません。
ちなみに次の13日の金曜日は2026年11月13日。そのあとは2027年8月13日、2028年10月13日、2029年4月13日です。
同じ計算のしかたで、六曜や一粒万倍日を月ごとに出しているのが吉日カレンダーです。暦は全部、計算で決まります。
本当でした: バスは待つと来ない
これがいちばん面白い結果でした。「10分間隔のバスなら平均5分待つ」は間違いです。
理由はこうです。バスの間隔がばらつくと、長く空いた時間帯のほうに、多くの乗客が入り込みます。2分の間隔に来る人はほとんどいませんが、18分空いた間隔には9倍の人が来ます。だから「乗客が体験した待ち時間」の平均は、間隔の半分より長くなります。
待ち時間の平均は、間隔の二乗の平均を、間隔の平均の2倍で割った値になります。実際に計算し、あわせて200万人ぶんのシミュレーションでも確かめました。
| バスの来かた | 計算値 | シミュレーション |
|---|---|---|
| きっちり10分間隔 | 5.00分 | 5.00分 |
| 5〜15分でばらつく | 5.42分 | 5.42分 |
| 半分は2分・半分は18分(団子運転) | 8.20分 | 8.20分 |
| 完全にランダム | 9.99分 | 9.98分 |
いちばん下を見てください。平均10分間隔なのに、待ち時間の平均も約10分。「半分の5分」ではありません。ダイヤが乱れて団子運転になるほど、体感の待ち時間は伸びていきます。
つまり「待つと来ない」は気のせいではなく、バスが不規則なら必ずそうなるという数学です。逆に言えば、正確に運行されているバスでは起きません。
本当でした: 隣のレジのほうが早い
これは計算するまでもない話でした。レジがN列あれば、自分の列がいちばん早い確率は1/Nです。
| レジの数 | 自分がいちばん早い | どこかの列が自分より早い |
|---|---|---|
| 2列 | 50% | 50% |
| 3列 | 33% | 67% |
| 4列 | 25% | 75% |
| 5列 | 20% | 80% |
3列なら3回に2回は隣のほうが早い。5列なら80%です。当たり前ですが、これを「自分だけ運が悪い」と感じるのが人間だということです。
同じ理屈は道路の車線でも、レジ待ちの行列でも成り立ちます。自分が最良を引ける確率は、選択肢の数だけ薄まります。
本当でした: 急いでいるときは信号が赤
これも数字にすると納得できました。信号を何個も連続で青で通るのは、そもそも非常に難しいのです。
ある方向が青になっている割合を4割とすると、通る信号が増えるごとにこうなります。
| 通る信号の数 | 青が4割のとき | 青が5割のとき |
|---|---|---|
| 3個 | 6.4% | 12.5% |
| 5個 | 1.0% | 3.1% |
| 8個 | 0.07% | 0.4% |
| 10個 | 0.01% | 0.1% |
信号5個を全部青で抜けられるのは、100回に1回。これでは「今日は赤ばかりだ」と感じるのが普通です。急いでいない日も同じ確率で赤に引っかかっていますが、そちらは覚えていません。
※ 実際の信号は連動している区間もあるので、この計算はばらばらに独立していると考えた場合のものです。
本当でした: バタートーストはバターの面が下
これは物理の問題で、実際に研究されています。机から滑り落ちたトーストは、床に着くまでにちょうど半回転くらいしかしません。上を向いていたバターの面が、ぴったり下に来るわけです。
ここから先は計算できます。落下時間は高さの平方根に比例します。回転の速さが同じなら、回る角度も高さの平方根に比例します。机の高さ75センチで半回転(180度)だとすると、
| 落ちる高さ | 落下時間 | 回る角度 | 着地 |
|---|---|---|---|
| 40cm(低いテーブル) | 0.29秒 | 131度 | バターが下 |
| 75cm(ふつうの机) | 0.39秒 | 180度 | バターが下 |
| 1m | 0.45秒 | 208度 | バターが下 |
| 1.7m | 0.59秒 | 270度 | ここで上に戻る |
| 3m | 0.78秒 | 360度 | 一回転してバターが上 |
バターの面が上に戻るには、机の2.25倍=約1.7メートルの高さが必要です。一回転させるなら4倍の3メートル。人間の腰の高さの机では、どうやってもバターの面が下に来ます。
つまりこれは運の話ではなく、人間の机の高さがちょうど半回転ぶんだったという話です。もし人類が身長3メートルだったら、この法則は存在しませんでした。
※ 回転の速さは滑り出し方で変わります。ここでは「机の高さでちょうど半回転する」という研究結果を出発点にして、そこから高さを変えた場合を計算しています。
気のせいでした: 雨男・雨女
ここからは計算すると消えるものです。
「自分が出かけると雨が降る」。これを確かめるには、ただの偶然でどれくらい起こるかを先に知る必要があります。雨の日が3割の土地で10回出かけたとして計算しました。
| 10回のうち | 確率 | 1万人なら |
|---|---|---|
| 6回以上が雨 | 4.7% | 474人 |
| 7回以上が雨 | 1.1% | 106人 |
| 8回以上が雨 | 0.16% | 16人 |
| 10回とも雨 | 0.0006% | 0.1人 |
「10回出かけて7回雨」はかなり雨男らしい記録ですが、1万人いれば106人に起こります。学校や職場の規模でも、必ず何人かは該当します。
もっと決定的なのがこちらです。100回の外出のうち、どこかに5回連続の雨がある確率を数えたら15.2%でした。つまり7人に1人は「5回続けて雨だった」という記録を持っています。
| 100回の外出のうちどこかに | 起こる確率 |
|---|---|
| 4回連続の雨がある | 43.2% |
| 5回連続の雨がある | 15.2% |
| 6回連続の雨がある | 4.8% |
雨男が生まれる仕組みはこうです。連続で雨が降ったあとに「雨男」と呼ばれ始めます。降らなかった人は何も言われません。だから世の中には雨男しかいなくて、「晴れ男でも雨男でもないふつうの人」は話題にならないのです。
これは確かめられる話でもあります。出かけた日の天気を記録して、その土地の降水日の割合と比べればいい。数か月で答えが出ます。占いと違って、雨男は検証できる主張です。そして検証すると、たいてい消えます。
本当だけれど、原因が自分ではないもの
「自分が店に入ると、後から客がどんどん来る」。これは実際に起きていることがあります。ただし原因はあなたの体質ではありません。
人は誰もいない店に入りにくく、何人かいる店には入りやすいためです。あなたが1人目になると、通りかかった人にとってその店は「入れる店」に変わります。2人目が入れば3人目はもっと入りやすくなります。あなたが呼んだのではなく、あなたが最初のきっかけになったという順番です。
行列ができる店とできない店が分かれるのも同じ仕組みで、味の差だけでは説明できないほど大きな差になります。
※ この節は仕組みの説明で、このページの他の項目と違って数字の計算はしていません。店ごとの実データがないと確かめられないためです。
言葉のトリックだったもの
「探し物は、いつも最後に見る場所にある」。これは法則でも偶然でもありません。
見つかったら探すのをやめるので、見つけた場所が必ず「最後に見た場所」になります。反例が存在しない言い方です。
この手のものは他にもあります。「本当に必要なものは、いつも見つからない」も、見つかったものは「本当に必要ではなかった」と後から言い換えられます。どう転んでも当たる言い方は、何も言っていないのと同じです。
整理すると5種類ありました
ここまで計算してみて、マーフィーの法則は一つの法則ではなく、性質の違う5種類の寄せ集めだと分かりました。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 確率が本当に偏っている | 靴下・バス・レジ・信号・13日の金曜日 |
| 物理で決まっている | バタートースト |
| 本当だが原因が自分ではない | 店に客が来る |
| 記憶の偏りだけ | 雨男・雨女 |
| 言葉のトリック | 探し物は最後に見る場所にある |
「なんとなく当たる」と感じるのは、本当に当たるものが混ざっているからです。全部でたらめなら、ここまで語り継がれていません。
そして覚えているかどうかで結論が変わるものは、記録を取れば答えが出ます。雨男がそうでした。当たると感じたときに、それがどの種類なのかを一度考えてみると、案外はっきりします。
占いとどう違うのか
このサイトは占いのアプリを置いています。矛盾しているように見えるかもしれないので、立場を書いておきます。
占いと雨男は、性質がまったく違います。雨男は「出かけると雨が降る」という事実についての主張なので、記録を取れば正しいか間違っているかが決まります。一方、生年月日と性格の関係は確かめられた根拠がなく、そもそも当たり外れを測る土台がありません。
だからこのサイトでは、占いを「当てるもの」として出していません。出しているのは計算そのものです。旧暦も二十四節気もマヤ暦も、誰が計算しても同じ答えになります。根拠はないが、計算は同じ。この線だけは崩さないようにしています。
よくある質問
靴下はなぜ片方だけなくなるのですか?
両方いっしょになくなる確率がとても低いからです。10足(20枚)持っていて2枚なくす場合、その2枚が同じペアである確率は1/19、約5.3%しかありません。残りの94.7%では、別々のペアから1枚ずつ消えて「片方だけ」が2つできます。持っている足数が多いほどこの確率は下がり、20足なら1/39、約2.6%です。
13日の金曜日は本当に多いのですか?
多いです。グレゴリオ暦は400年でぴったり20,871週なので完全に繰り返します。その400年間にある4,800回の13日を曜日別に数えると、金曜日が688回でいちばん多く、木曜日と土曜日が684回でいちばん少なくなります。均等なら685.7回なので、金曜日はわずかに多い側です。これは偶然ではなく暦の構造から決まっています。
バスは待っているときに限って来ないのですか?
統計の上では本当です。平均10分間隔でも、間隔がばらつくと乗客が体験する平均待ち時間は5分を超えます。長く空いた時間帯のほうに多くの乗客が入り込むためで、待ち時間の平均は間隔の二乗の平均を間隔の平均の2倍で割った値になります。間隔が完全にランダムな場合、平均10分間隔でも待ち時間の平均は約10分です。
バタートーストはバターの面が下になって落ちるのですか?
机の高さでは下になりやすいです。落下時間は高さの平方根に比例するので、回転する角度も高さの平方根に比例します。机の高さ75センチで半回転するとすれば、バターの面が上に戻るには270度回る必要があり、高さは2.25倍の約1.7メートル必要です。一回転させるには4倍の3メートルが必要になります。
雨男・雨女は本当にいるのですか?
計算すると消えます。雨の日が3割の土地で10回出かけた場合、7回以上が雨になる確率は約1.1%です。低そうに見えますが、1万人いれば約106人に起こります。さらに100回の外出のうちどこかに5回連続の雨がある確率は15.2%で、7人に1人は「5回続けて雨だった」という記録を持ちます。珍しくない出来事を、あとから特別なことだと考えているだけです。
この記事の数字について
すべてこのページのために計算したものです。引用や推計ではありません。
- 靴下・レジ・信号・雨男 — 組み合わせと確率の式から厳密に計算
- 13日の金曜日 — 2001年から2400年までの4,800回をすべて数え上げ
- バスの待ち時間 — 式による計算と、200万人ぶんのシミュレーションの両方。小数第2位まで一致
- 5回連続の雨 — 100回の外出を20万通りシミュレーション
- バタートースト — 落下時間から。「机の高さで半回転」を出発点にした相対計算
計算に使ったコードを見る
from math import comb, sqrt
import numpy as np
# 靴下: 10足(20枚)から2枚なくして、同じペアである確率
n = 10
print(n / comb(2 * n, 2)) # 0.0526... = 1/19
# 13日の金曜日: 400年で完全に繰り返すので数え上げる
cnt = [0] * 7
for y in range(2001, 2401):
for m in range(1, 13):
cnt[jdn(y, m, 13) % 7] += 1 # 月曜=0
print(cnt) # 金曜(添字4)が688で最多
# バスの待ち時間: E[W] = E[X^2] / (2 E[X])
x = np.array([2.0] * 500 + [18.0] * 500) # 半分2分・半分18分
print((x ** 2).mean() / (2 * x.mean())) # 8.2 分
# バタートースト: 落下時間は高さの平方根に比例する
G = 9.80665
for h in (0.75, 1.69, 3.00):
print(h, 180 * sqrt(h / 0.75)) # 180度 / 270度 / 360度
# 雨男: 雨が3割の土地で、100回の外出に5連続の雨があるか
rng = np.random.default_rng(20260912)
a = rng.random((200000, 100)) < 0.3
run = np.zeros(len(a), dtype=int); best = np.zeros(len(a), dtype=int)
for j in range(100):
run = np.where(a[:, j], run + 1, 0)
best = np.maximum(best, run)
print((best >= 5).mean()) # 0.152
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